2020/11/12:日本学術会議任命拒否撤回を求める市民デモ
神戸大学名誉教授 和田 進氏スピーチ

 菅首相は、日本学術会議の選考委員会の議を経て推薦された次期会員候補 105人のうち6人の任命を理由も示さずに拒否しました。予算委員会での論議においても支離滅裂な論理矛盾の答弁や「個別の人事には答えられない」との答弁拒否を繰り返すのみでした。

 ところで、菅首相は、6人を排除して99人の任命の際に杉田和博官房副長官と打ち合わせしたことを認めています。この杉田和博氏は警察官僚で一貫して警備・公安畑を歩んだ人物で、警備局長を経て内閣官房にて内閣情報調査室長、内閣情報官、内閣危機管理官として政権中枢で公安と危機管理を担い、2012年第二次安倍内閣において内閣官房副長官に就任しました。『共同通信』は、「会員候補6人が安全保障政策などをめぐる政府方針への反対運動を扇動する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが7日、分かった。安全保障関連法や特定秘密保護法に対する過去の言動を問題視した可能性がある。複数の政府関係者が明らかにした。」と報じています。

 公選制から推薦に基づく任命制に変更された国会での法案審議の際に、首相の任命はあくまで形式的であることが1983年、2004年に繰り返し確認されています。ところが、2018年11月に「内閣総理大臣は推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」との解釈を記した文書を学術会議事務局が作成していたとしました。これは国会審議の中で確定していた法解釈を秘密裏に変更したものであり、国権の最高機関たる国会権限への侵害です。

 ここで問題にしたいのは、この乱暴な解釈変更の背景についてであります。第二次安倍政権の政策展開の際立った特徴は、日米一体となった『戦争ができる国家体制』の構築でした。2013年の特定秘密保護法の制定、2014年の閣議決定による集団的自衛権の容認、2015年の安保法制=戦争法の制定、2016年の施行、2017年の共謀罪法の制定、これらに対して拒否された6氏は批判的見解を明らかにしていました。共謀罪について法律家6団体は、「戦争への道を突き進み、憲法9条の改悪を企む安倍政権は、これに対抗する巨大な市民・野党の共同の運動が生まれたことに脅威を感じ、運動の弾圧を狙い、批准予定の国連条約が目的としていない「テロ防止」など嘘に嘘を重ねて共謀罪を強行に成立させようとしている。共謀罪はまさに現代の治安維持法である。」と指摘していました。

 また、2017年4月には、学術会議は、2015年から始まった防衛装備庁の『安全保障技術研究推進制度』に対して強い懸念を表明する声明を発していました。この声明は、戦前に科学者が戦争に協力したことへの反省を踏まえて、戦後に日本学術会議が創設された歴史を改めて思い返しつつ、軍事共同研究に手を添えるべきでないことを訴えていました。

 『戦争をする国家体制』作りに突き進む安倍政権にとって、政権批判を展開する研究者の存在、そして学術会議の存在自体が邪魔ものと考え始めていたことが、十分に予測されます。2020年の学術会議会員の任命をにらんでの解釈変更による任命拒否の理由付けが開始されたとみられます。安倍政権を官房長官として支え、安倍政権の継承を謳う菅首相によって乱暴な任命拒否がなされ、学術会議の在り方自身の検討まで課題とされており、憲法9条の改悪、敵基地攻撃能力の保有まで視野に入れた画策を進める中で行われたものです。

 6氏の任命拒否の理由が政策批判であったとすれば、研究の成果に基づいた研究者への見解に政府が判断を下すことであり、憲法23条に保障された学問の自由を侵害することになり、学問の自主性、自立性が損なわれることは明らかです。

 杉田和博氏の国会喚問を実現し、任命拒否の理由を明らかにさせるとともに、憲法違反の任命拒否を撤回させ任命を実現させていくことが必要です。